表紙

思い出の南極



『(8)観測のスタートと生活、“ションドラ”のこと』
 越冬中、私は昼間は観測棟で過ごした。晴天なら、屋上の太陽光の追尾装置のカバーを外し、赤外分光装置へ太陽光を導入し観測を行う。分光装置の仕組みは、光をいったん二方向に分割し、それぞれを鏡で反射した後に再び合成する(マイケルソン分光計という)。その際に一方の鏡を移動させ、二つの光路差を変化させると波長によって光の強弱が生じる。この変化を数学的に解析すると、波長別の光の強さが分かる(フーリエ変換分光という)。
 この技術には、精密な光学系と小型で安定したレーザー光、電子計算機が使われる。晴海の検査で思わぬ事態に遭遇したし、色々失敗したが、なんとか動くことが分かった。昭島市の工場(日本電子(株))で一緒に製作し、メンテ技術のノウハウを教えてくれた技術者の方たちに感謝するばかりだった。
 トラブルに備えスペア部品を用意していた。にもかかわらず部品交換して全く同じ間違いを犯したときは、愕然とした。同じ過ちをすればスペアをもっていても意味がない。幸い、致命傷にならず運が良かった。
 観測棟では岩坂さんとお茶を飲み、おしゃべりを楽しんだ。生活上、小用は重要な問題だった。“ションドラ”(空ドラム缶)にためるが、ホースが凍結したことがある。凍ったゴムホースを外し地面にたたきつけたりしてやっと開通したが、暖房の効いた部屋に戻った途端、強烈な臭いに襲われた。屋外の極寒の世界では臭いは凍結されていたのである。ハエなど昆虫もまったくいない世界だ。

 

居住棟の外に置かれた“ションドラ”    精製水ポリタンクを再利用した小用便器(内側)



次回『(9)航空機で空気試料を集める』につづく

No.1『南極観測隊員になったワケ』
No.2『晴海埠頭を出発』
No.3『航海・オーストラリア西海岸へ』
No.4『氷海の中へ』
No.5『夏作業中の思い出』
No.6『観測隊の構成』
No.7『越冬交代』





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