表紙

シンボウ先生(森望)の老いの科学・長寿への道



 

『老化と寿命:まずは、夢のない話から始めよう』
 

 「老いなき世界」と「老いある世界」
 最近、本屋に行くとある本が山積みしてある。ハーバード大学の分子遺伝学の教授デービッド・シンクレアの『LIFE SPAN:老いなき世界』(東洋経済新報社)である。分厚い本で、これを読み通さないと「老いなき世界」に行き着けないと思うと、多少うんざりもする。だが、世間ではかなり読まれているらしい。いや、世間どころか、われらが日本市民スポーツ連盟の川内会長の「徒然草」を読めば、なんとその詳細な解説があるではないか! 
 「老いなき世界」、それはだれもがめざす世界なのかもしれない。健康のためにウォーキングを欠かさない人たち、私たちは皆、そんな「老いなき世界」を目指して歩き続けている。いや、必ずしもそれをめざしているのではないかもしれない。大勢いればいろいろな考え方がある。それは、科学者についてもいえる。多くの老年学者がいれば、いろいろな考え方がある。科学的な真実はたったひとつ、だとしても、である。
 最初に、はっきりと言っておこう。「老いなき世界」、そんなものはないのだ。シンクレア教授はこの本の冒頭で、「老化は病気である」と明言している。しかし、老化は決して病気ではない。そうであれば、老人はみな病人になってしまう。老化すると、それに付随するいわゆる老年病というものはある。老眼や難聴にはじまり、認知症や骨粗しょう症、最近ではサルコペニアやいわゆるメタボ(生活習慣病)まで入れたらきりがない。しかし、老人すべてがこれにかかるわけではない。
 老年病とは別に「老化症」というものもある。これは、ある意味深刻である。生きていて、若い時から急速に老いる病気である。ウェルナー症とハッチンソン・ギルフォード症というやつだ。早老症とかプロジェリアともいわれる。プロジェリアは20歳までに急速に老いて亡くなる。いわば急老症である。
 幸い、健康ウォークをする人たちはみなそんな病気とは無縁な方たちであろう。でも先が気になる。だから、健康のために歩く。それは正しい。でも、私たちは「老いある世界」にいることは忘れずにいよう。医療がどんなに進んだとしても、「老い」がなくなることはないのだ。人が老化すること、生命には寿命という限界があること、それは生物学上の普遍原理であって、生理的なものなのだ。けっして、病気とか病理学的なものではないのである。

 ピアニストとコンサートホール
 『老いなき世界』の本の中でシンクレア教授は、老化現象はあたかも「弾き方を忘れたピアニスト」のようだと指摘している。これは、面白い比喩だ。生命の背後にある遺伝子ゲノムの老年性変化のもっとも注意すべき点を、DNAの化学修飾、エピゲノムに焦点をあてて、その化学修飾を戻せない、若い時の状態にできない、そんな比喩をしている。
 しかし、遺伝子の情報に基づいてそれを「演奏」するのはエピゲノムではなく、転写因子という酵素タンパク質である。だから「ピアニスト」と形容すべきは転写因子であるはずだ。シンクレア教授の強調するエピゲノムは遺伝子の全体像の様相が変化することをいっている。それはいわば、遺伝子にも「四季」があるようなものなのだ。一年の四季の変化だけではなく、人の長い人生の中での変化もある。それがエピゲノムに現れるのだ。
 だから、ゲノムの老化は「弾き方を忘れたピアニスト」ではなく、「コンサートホールにも四季がある」ようなものだ。若い息吹に包まれる春から初夏もあれば、エネルギッシュに活動する夏もある。少し落ち着いて、深くいろいろ考えながら振り返る秋もある。そして、寒さに凍えながらも工夫し耐える冬もある。そんなふうに移ろいゆくエピゲノムの四季の中で、それを演奏して生きぬいていくのは、DNAからRNAを読み取る転写因子というピアニストなのだ。

 ゲノムの中の四季を生きる
 私たちは、誰もが親から譲り受けた遺伝子DNAを元に生きている。成長とともに、またさまざまな環境の中で遺伝子全体のセット、つまりゲノムはさまざまな変化をうける。それがエピゲノムとして反映される。
 パン屋にいくと「ベーコンエピ」というのがある。端っこが左右にとんがっている細長いパンだが、あの「エピ」は麦穂の意味で、遺伝子ゲノムのエピも、遺伝子の端っこが少し変化すること、具体的には「メチル化」とか「アセチル化」といった化学修飾を意味している。いわば、遺伝子の化粧なのだ。その様相が人生とともに変わる。老化とともに変わる。そんな変化をうまく調節してゆければいいし、その調節がうまくいかないこともあろう。
 私たちが健康ウォークで期待しているのは、このエピの変化に少しでもうまく対応できるよう、生体内の代謝がその方向へうまく向かうよう、よりよい方向への「変化」を期待して、頑張って歩いているのだ。

 「寿命遺伝子」から学ぶ抗老化
 人の遺伝子のセットはだいたい3万種類くらいある。成長に必要な遺伝子もあれば、老化のときに動き出す遺伝子もある。実は寿命を決める遺伝子もある。この30年ほどの研究の結果、だいたい30種類くらいの寿命遺伝子がある。寿命を長くしたり短くしたりする遺伝子だ。
 ハーバード大学のシンクレア教授がまだ若いとき、同じボストン市内のマサチューセッツ工科大学(MIT)のレオナルド・ガランテ教授の研究室で研鑽を積んでいたとき、そこで出会ったのが、酵母での寿命研究とエピゲノム修飾だった。その研究には、日本人で慶應義塾大学から同じ研究室に留学した今井眞一郎博士(現在は米国セントルイスのワシントン大学教授)も密に絡んでいる。それが、いま話題のサーチュインやらNMNにつながっている。
 サーチュインやNMNはたしかに寿命制御の主役の一つだが、そのすべてではない。エピゲノムを操作するのは転写因子であって、ピアニストは別物なのだ。たとえば、FOXO(フォクソ)とかREST(レスト)とか、大物のピアニストがいる。それ以外にも、インスリン系のホルモンのようなペプチドも寿命制御に大きく関わる。これらが、生命の糸から紡がれるシグナルの大きな流れの中でよどみなく流れてゆく。それが生きていることの背後にある生命現象の本質なのだ。
 寿命遺伝子を制御することは、アンチエイジングの王道である。だが、その王道はサーチュインのルートだけではない。他にもいろいろな「道」があるのだ。 その「道」の全体像を知るには、先のシンクレア教授の『LIFE SPAN:老いなき世界』よりもむしろ、手前味噌で恐縮ではあるのだが、『寿命遺伝子』(講談社ブルーバックス)を読んでみませんか? 新書でお手軽サイズだけれど、中身は濃密。そして、抗老化への「道」は決してひとつではないこともわかってくるはずだ。


 

 老いに寄り添う:老化は病気ではない
 「老いなき世界」、そんなものは、実はないのである。人はみな、アンチアンチといって老化に抗するのに躍起になっているけれど、大事なことは「老い」を正しく理解し、「老い」に寄り添いながら強く生きて行くことだ。みな「老いある世界」に生きている。老化は病気ではない。そして、私たち老人は病人ではないのだ。だが、病気になることはある。だから、健やかな老後のために、また一歩、歩いてゆこう。


注)  

1)ゲノム:生物やウイルスのもつDNAの塩基配列の全体をさす。
 

2)エピゲノム:ゲノム遺伝子の3次元配列による。遺伝子配列のどこから読みだすかあるいはどの部分は読まないか等を調節する。
 

3)化学修飾:メチル基やアセチル基が遺伝子タンパクに加わることにより、遺伝子の呼び始めの場所を決める。あるいはその部分を読むか読まないかまで規定する。
 FOXO, REST:ともに長寿に関連する遺伝子の読み出しに関連する転写因子とよばれるたんぱく質です。DNAに結合して遺伝子の活性を調節し、DNAからmRNAへの転写量を調節します。






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